2020年1月29日水曜日

The Arrival(Shaun Tan 作)

NY にいたとき、どしゃ降りを避けるように入った Brooklyn の古書店で見つけた本です。装丁が中世の古文書のような凝った作りになっていたのが気になって、手にとってみました。

The Arrival(日本語では「到着」の意)

鉛筆で描いたような繊細で美しい絵に引き込まれました。最初から最後まで文字は一つもなく、コマを追っていく形になります。

言葉はありませんが、映画を見ているように理解できます。

一つ一つの絵が、額に入れたくなるほどの完成度であることはもちろんですが、描かれているものの不思議感がたまりません。

お話はある男性が家族と別れて未知の世界に出かけるところからはじまります。題名が「The Arrival (到着)」とある理由は読んでみると分かると思います。



未知の世界だけあって、言葉も住んでいる生き物も食べ物も不可解なものばかり。戸惑う男性。なんとか仕事を見つけ、手探りながらも働き始めます。



暖かくて優しい、とても丁寧に描かれたお話です。

この本を「読み」終わったあと、ふと思いました。

「日本に来る移民の人たちもこんな思いをしてるのかも」

私たちには無意識に言葉として入ってくる日本語も、外国人にとってはぐにゃぐにゃした記号にすぎません。




食べ物も習慣も言葉もまったく違う場所に、家族と別れて1人で出稼ぎに来なければいけない人たちの不安といったら、どれほどのものでしょう。旅行や留学と違い、いやだったら帰るという選択肢もない場合、その覚悟や悲壮感は私たちには想像もつかないものだと思います。



本の中では、主人公と似たような境遇の他の移民たちが、どうやってこの未知の世界に来る羽目になったのかを説明する場面があります。恐ろしいことが起きて、自分の世界を逃げ出さざるを得なかった、と。まさに難民を彷彿とさせます。



文字のない絵本ですが、このタイプの本は最近 グラフィック・ノベル(絵小説)というジャンルに分類されています。買ってから知ったのですが、この本は出版以来世界各国29の賞を受賞しています。また、Amazon ベストセラー商品ランキング(2011年12月現在)もすばらしい成績でびっくりしました。

1位 ─ 洋書 > Comics & Graphic Novels > Children's Comics
1位 ─ 洋書 > Children's Books > Educational > Explore the World
1位 ─ 洋書 > Comics & Graphic Novels > Graphic Novels


この本を買った後、作者の Shaun Tan (ショーン・タン)という人について調べてみました。

オーストラリア出身
子ども時代

彼は見ての通りアジア系なのですが、オーストラリアで生まれ育っています。父親がオーストラリアへの移民で、彼は2世ということになります。子どもの頃から絵が上手かったので、背が一番低かったのを補うことができたと言っています。


国籍・年齢を問わずに楽しめる本だと思います。



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アライバル(日本語版で、作者のあとがきが翻訳されている)
The Arrival(原著ですが、文字がないので内容に関しては同じ)





2020年1月16日木曜日

The Black Book of Colors

The Black Book of Colors

The Black Book of Colors。直訳すると、「色についての黒い本」です。何のことかと思われそうですが、その名のとおり、すべてが漆黒の絵本です。

例によってワシントンDC のお気に入りの本屋さん Kramers で見つけて購入。絵本コーナーはそもそもカラフルなエリアなので、真っ黒な本は目を惹きます。

写真では分かりにくいかもしれませんが、黒いページの上にさらに黒いエンボスというのでしょうか、点字のような感じででこぼこと絵がついています。例えば「赤」のページはイチゴのぶつぶつを指で触って感じることができるようになっています(写真参照)。



色によって「ふわふわ」したものであったり、「きらきら」したものであったり、「つるつる」したものであったりします。あえて色を排除することで、目をつぶっていても、暗い部屋でも、色を感じることができるという仕組みです。なんという粋な本でしょう。

そういえば昔観た映画「マスク」で、目の見えない女の子に主人公が色を教えようとするシーンがありました。

「これが赤だよ」と熱々に暖めた小石を渡し、「これは青」と冷蔵庫で冷やした小石を渡します。「これは雲」とふわふわの綿を手に握らせたり。



特に生まれつき盲目で、色を見たことがなければ、色という概念自体が理解しえないものなのかもしれません。私たちが常識と思っているものがいかに普遍性でないものなのか、ついつい忘れそうになりますが。

本の冒頭に以下のような一文があります。

"It is very hard for a sighted person to imagine what it is like to be blind."
(目の見える人にとって、目の見えないということがどういうことかを想像するのはとても困難だ)

そして、この本は、"the experience of a person who can only see through his or her sense of touch, taste, smell or hearing"(触ったり、味わったり、嗅いだり、聞いたりすることでのみ「ものを見る」人の体験)がどんなものかを伝えるためのものだとあります。



文章もエンボスで、点字がついていますが、あるレビューによると本当の盲人が触れて理解のできる高さはないそうです。目の不自由な人のための本というわけでは(点字にかんしては)なく、目の見える人があえて触ることで「ものを見る」体験をするための本なのかもしれません。

物事には常に違う側面があるということを思わせられる一冊でした。


風が吹くとき:When the wind blows

この本、ご存知でしょうか。

スノーマンで知られるイギリスの作家レイモンド・ブリッグズが1982年に出した、絵本、というよりはグラフィック・ノベルといわれるジャンルです。小さな子ども向けの絵本ではありません。

私は中学生くらいの時にはじめて読み、全部が理解できたわけではありませんが、大変な衝撃を受けたのを覚えています。あれから何十年か経って自分の国でまさか放射能の心配をするようになるとは思いませんでした。今も手元にあるボロボロになったこの本を最近もう一度読み直していたところです。

ちなみにこの題名は『マザーグース』の同名の詩から来ています。

ゆりかごが赤ちゃん入れて木にかかる。
風が吹くとゆりかご揺れる。
枝が折れるとゆりかご落ちる。
ゆりかごと一緒に赤ちゃん落ちる。

・・・というような詩です。

この本は、イギリスの田舎でのどかな暮らしを送る年金生活の夫婦についてのお話です。夫の方は毎日図書館で新聞を読んだりしていて、緊迫してきている世界情勢について気をもんでいますが、妻の方は世界情勢にもとんと興味はないようで、もっぱら家事にいそしむ静かな毎日です。

夫は図書館でもらってきた政府発行のパンフに忠実に、いざ核戦争が始まったときのためにいろいろな準備を始めます。家の中に小さなシェルターも作ります。妻の方は半分呆れつつ、相変わらずあまり興味はないようです。

ある朝、突然ラジオから恐ろしいニュースが流れます。残された時間は3分。

・・・3分・・・



『風が吹くとき』
(When the Wind Blows)

この後は説明を省きますが、幸せな田園風景が続くページの合間にサブリミナルのような暗いページ(その頃、ある海底では・・・など)があり、普通の生活に刻々と迫る抗えない大きな大きな力について描いています。あきれるほどに政府を信じて疑わない老夫婦に胸がしくしくと痛みます。

また、この原作は数年後にアニメ映画化もされました。音楽をピンク・フロイド(元)リーダーのロジャー・ウォーターズ、主題歌をデヴィッド・ボウイが担当、彼らがこの仕事を引き受けたということからも原作の影響力の大きさがうかがわれます。1987 年公開当時チェルノブイリ原発事故翌年のヨーロッパでは、イギリスを始め各国で大ヒットしました。

以下映画の一部です(英語)。
シェルターに入ってもなお、「ケーキがこげちゃう・・・」という妻の言葉が響きます。

また、この映画について米アマゾンに以下のようなコメントが残されていたのでご紹介します。

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When I watched the film for the first time some years ago (somehow I didn't see it when I was a kid), I had to go home alone through the night and I heard some laughter out of bright open windows. People crossed the street, comin from clubs or going to clubs. It felt very strange... after watching this movie.

You really should watch it. I think, its one of the most important animated films ever made.

この映画を何年か前に始めて見終わって(子どものころにはなぜか見たことがなかった)、夜中に1人で家に帰った。

そしたらその帰り道に、明るく開いた窓から笑い声が聞こえてきた。人々はクラブから出てきたり、クラブに入ろうと道を横切ったりしていた。

それが、この映画を見た後には ・・・ とても不思議な気がした。

これは見ておくべき映画だ。今まで作られたアニメ映画の中でも最も重要なものだと思う。

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風が吹くとき [DVD]

原作者レイモンド・ブリッグズは、「(この作品を創ったのは) 反核運動のためでも政治意図によるのでもない」とも言っています。これを読んでどうとらえるかは、私たちにゆだねられているということでしょう。

この本はすべての図書館、すべての学校に置いて欲しい本だと思います。原発問題とか関係なく、人として知っておくべきことだと思うからです。

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『風が吹くとき』
 (When the Wind Blows)

2020年1月15日水曜日

Big O との出会い:The missing piece meets the big O


Shel Silverstein というユダヤ系アメリカ人がいます。この人は詩人であり、Singer-Songwriter であり、作曲家であり、音楽家であり、漫画家であり、脚本家であり、絵本作家でもあります。

この人の作品は多くの言語に翻訳され、全世界で読まれていますが、日本では「おおきな木」 という本が一番よく知られているようですね。

「おおきな木」 

男の子は木が大好きだった。

オリジナルは「The Giving Tree(与える木)」という題名です。


この本をはじめて見つけたのは、表参道のクレヨンハウスという本屋さんでした。ここはアート系の絵本などを置いていて、さらに自然食レストランも併設しています。時間だけはあった大学時代によく何時間も過ごしたものです。

落合恵子さんのお店だとはじめて知りました。

Big O との出会い」という本は、「The Missing Piece Meets the Big O」 という本を邦訳したものです。



The missing piece = かけら は、角(かど)の多い体の形のせいでなかなかパートナーが見つからず、自分の居場所も見つけられません。ずっとそのことで悩み、いろいろと試行錯誤しています。

試行錯誤の様子がとてもかわいいのです。

でもどうしてもうまくいかないのです。


あらすじは書きませんが、これほどにキた本はなかったと思います。角がとがっていることを気にするかけらに、「角は取れて丸くなるもの」だという Big O(絵はただの大きな〇です。そのままです・・・)、その後のかけらと Big O の試行錯誤がどこに行き着くのか・・・ ぜひ読んでみてください。

英語版も大変シンプルなので原著もいいかもしれません。私はあまりに気に入ってどちらも買ってしまいました・・・。

「君が大きくなるなんて知らなかったよ。」
「私だって知らなかった。」

絵がかわいいのです。

ちなみにこの Shel Silverstein は、子どもが生まれて数年後に奥さんを亡くしています。さらにその子までも11歳の時に亡くしています。

絵本作家とは思えないこわもてですが、いつも何か優しい本を描く人です。



2020年1月14日火曜日

はじめまして

アメリカ在住の40代女性です。子供のころは本の虫、そして10代後半頃からは美しい絵本に魅せられ、中年のおばさん(そして小学校低学年の娘の母)となった今では絵本好きが高じて、娘を差し置いていろいろな絵本を(自分用に)集めています。

これまで数年、別の独り言ブログで好きな絵本について記録していたのですが、絵本関連記事だけ分けたいなと思い、こちらに引っ越しすることにしました。

いつかこうした絵本たちを集めた本屋カフェ的な場所を作るという夢もありますが、とりあえずはここで一冊一冊丁寧に並べていこうかと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。